私の街に古くからある動物園の閉園が決まった。そのことを知ったのは、動物園から手紙が届いたからだった。その手紙にはこう書かれていた。
[先月行われた動物イラストコンテストにご応募いただき、ありがとうございました。
あなたのイラストが優秀賞に選ばれましたので、賞品をご用意いたしました!
◎優秀賞賞品→白山動物園の動物を、どれでも一匹プレゼント!
※白山動物園は来月閉園しますので、一週間以内に欲しい動物を選び、同封のはがきでご連絡ください。]
早速どの動物をもらうか、家族会議が始まった。
「お母さんはヘビがいいわ。ヘビ革の財布が欲しかったのよね。」
「お父さんはサルがいいな。芸でも仕込んでネット配信したら広告収益がもらえるだろ。」お母さん、お父さんが、口々に話し出す。
「私は茶色のウサギがいい!」
私も負けじと割り込む。
「ヘビにしましょうよ、ね?」
「財布を作るためにもらうなんてひどい!」
「あなたの分も作ってあげるから、ね?」
「いらないよ!私はウサギがほしいの!」
とうとう私は泣き始めた。するとお父さんが大きな声で
「二人とも喧嘩するんじゃない!それならもうサルでいいだろ!」
と言うと、さらに大きな声で
「サルなんてうるさいじゃない!」
と怒鳴るお母さん。
「待ってよ!あのさ、もともと私の描いた絵がコンテストで選ばれたんだよ?私の意見を優先するべきじゃないの?」
一息で私がそう言うと、
「これは家族の問題よ?」
「ウサギなんて珍しくもないし、何の芸もできないだろ!」
と、怖い顔で私を攻撃する二人。
「もういい!みんな大っ嫌い!」
その日から家族が会話をしなくなり、どんどん申込みの締め切りの日が近づく。そろそろ決めないと、動物はもらえない。私は家族がこれ以上もめなくてもよくなる動物の名前をはがきに書いて、勝手にポストに入れた。
閉園の日、家に大きなトラックが来た。みんな、ヘビ、サル、ウサギのどれが出てくるのかと、真剣な表情でトラックを見つめていた。トラックの扉が開いた。中から出てきたのは、猛獣のライオンだった。閉園が決まってからろくに食事をもらっていないライオンは、今にもこっちに向かってきそうだ。
もう、もめなくて済むね。