「やっとゲームがやれる」
今日は、世界に一万個しかない、新しい ゲームの開始日なんだ。僕は博士ってあだ名のおじさんにソフトをもらったんだ。運がいいでしょ。そのゲームは、今までのゲームと違って、魂ごとゲームの世界に行ける。少し前までは、想像も出来なかったゲームなんだ。
しかも、学生に合わせてくれたのか、開始日は夏休み中だった。僕は中学生だから、めっちゃ嬉しかった。
そして僕は、ゲーム開始時刻になった瞬間にログインした。そこは、音や空気など、現実世界と全く一緒だった。全くというのは、僕からしたら現実世界と仮想世界の違いが分からなかったからだ。テレビとかで偉い人が「情報量が違う」とか、よく分からない事を言ってるから、他の人には分かるかもだけど、僕には分からなかった。違うとしたら、自分の見た目ぐらいだと思う。だって現実の僕はこんなに大きくないし、こんなに不細工でもない。まあ現実の僕もイケメンではないけど。
それは置いといて、僕は「今日からここで過ごすんだー」と思うとわくわくした。だってゲームの世界で生活できるんだよ!そんなのうれしくないわけないじゃん。逆に、うれしくない人に会ってみたいぐらいだよ。
僕は、ここで過ごし始めて気づいた事がある。最初の一万人以外誰もいないんだ。普通さ、こういうRPGゲームだと、NPCとかがいるようなものじゃないの。なのに、このゲームにはNPCもCPUもいないんだ。まあ、NPC達がいないから、その分みんなで、街を盛り上げていくっていう面白さもあるよ。でも、このゲームの醍醐味はモンス ターを倒して経験値を得て、レベルアップしていくものじゃないの。まあ、その中で鍛冶職人になったり、商人として、プレイヤーを支えたりするけど、そういうのってNPCがやってるのを見て、僕達プレイヤーもやり始めるものじゃないの?
僕は、NPC達がやってるお店が一カ所ぐらいあると思ってた。だから、今まで気づかなかった、NPCや、CPUの大切さに気づけた。
僕達は、街を盛り上げたりするのに必死で、九割の人はゲーム攻略をしなくなった。ダンジョンに潜るのは、食材になるモンス ターの肉を他のプレイヤーに売る為だし、使える素材の定義は、盾や剣になるかより、生活に使える素材かどうかに変化していた。
そんな生活が普通になったとある日に、現実世界から一万人ぐらいの人が来た。まるで、僕らが初めてこの世界に来た時のようだった。
新たに来た一万人のプレイヤーは僕らを見て、いや、僕らの作ってきた街を見て、「今まで見てきたどのゲームのどの街よりちゃんとしてるし、NPCが俺らと同じプレイヤーみたいだな」と言った。それを聞いて僕は気づいた。現実世界と、仮想世界の違いが分からなかったのは、僕が現実世界を知らなかったからで、NPCがいなかったのは、僕達自身がNPCだったことに。