「な~んだ今日もおまんじゅうか。」
「こらっわがままいわないの。」
「えみ、いいのよ。」
「ごめんなさい。母さん。あの子いつもこんな感じで…」
母と祖母の会話を聞きながら一花はしぶしぶおまんじゅうを手に取った。
小学五年生の一花は洋菓子が大好きだっ た。しかし、群馬に住む祖母の家では洋菓子がでる事はなかった。
その日の夜。一花はのどがかわいて目が覚めた。麦茶を飲もうと布団から出てろう下を歩いていると明りがついている部屋を見つけた。電気を消そうと部屋の中に入るとなんとそこに祖母がいたのだ。一花はびっくりして
「おばあちゃん!」
とさけんでしまった。祖母は私の声におどろいたのか少しの間、目がまん丸になっていたがすぐいつものやさしい顔にもどった。
「どうしたんだい一花。こんな夜中に。もしかして、ねむれなかったのかい?」
「おばあちゃんこそ何やってるの。」
祖母は手招きをした。行ってみると、
「あ!達磨焼きの型!」
祖母はうなずいた。達磨焼きというのは鯛焼きの鯛を達磨に変えたような和菓子だ。達磨の形にしたのは群馬県は達磨の生産が日本一だからだという。
「ちょっと達磨焼きに白玉を入れてみようと思ってね。あっでももちろんお店だいだい伝わる味は残しておくつもりだよ。」
「ねえおばあちゃん。私も手伝っていい?」
話を聞いていて一花もちょっと気になってきたのだ。祖母はいいよと答えると
「じゃあまず生地の元を作らないとね。」
といった。和菓子作りを一から始めるとなるとすごく大変だった。生地を混ぜたり小豆をといだり、とっても力のいる作業だ。最後に生地の元を型に流しこんで餡子と白玉を入れれば完成なのだが、一花はつかれてイスに座っていた。しばらくすると祖母がお皿を持ってこっちに歩いてきた。お皿の上には新しい達磨焼きがのっていた。一花は食べて良いか確認するとすぐ食べ始めた。新しい達磨焼きはとてもおいしく生地はサクサクこうばしく、中はもっちりしていた。でも、祖母はうかない顔をしている。どうしたのだろう。
「この店も私の代で最後かもしれんな。」
祖母の顔を見ていると何だかとてもたまらない気持ちになってきた。
「私がつごうか。」
祖母が信じられないという顔でこちらを見ていた。
十年後、一花は本当にここ福猫堂の後をついだ。今でもあの時のことは昨日のことのように覚えている。
(何で一回和菓子を作っただけであんなにも好きになったのだろう)
とちょっと不思議に思いながら一花は今日も達磨焼きを焼いた。十年前と同じように。