『僕はすねていた、というか、怒っていた。
なんで、と思うよね。実は、今日算数のテストが返されたからなんだ。
算数のテストが返されて、「やばい」って思った。二点だったからだよ。
案の定、僕は親に叱られた。
「なぜ、毎回こんな点数をとるんだ!ふざけているんじゃないだろうな。」
叱り方にも、問題があると思う。こんな風に叱られても、やる気がなくなるだけだし。
それで僕は考えた。勉強しなくてもいい場所に行けばいいんだ、とね。
僕は計画を立てた。その名も、家出計画。
一、クラス全員を計画にさそう。
二、秘密基地を探す。
三、食料を、みんなで集める。
四、家出
五、ばれないようにする。
一から実行した。結果、みんなも家出をしたいと言ってくれた。
秘密基地は、裏山にある小屋を使うことにした。
食料は、それぞれ家にある缶詰めを持ってくる予定。
家出決行日は、七月七日になった。
今日は六月三十日。あと八日間まてば、親から離れられる。
あっという間に日は過ぎていき、ついに明日が決行日という日になった。
放課後になり、リュックを背負って家から出た。リュックの中には、ツナ缶が十個とサバ缶が十一個、ビスケット一箱と、はさみが入っている。
裏山についた。小屋までは、五分ほどかかる。
ようやく、小屋についた。もう他の子の荷物は置かれている。しかし、人はいなかっ た。
おかしい、と思った僕のそばには、血の跡があっ た。
視界のすみに、赤い物が見えた。
その赤い物は、もぞもぞと動いた、かもしれない。ごそっ、と音がしたからそう思っ た。
怖くて、赤い物の方を見れない。
赤い物は、「ミシッ、ミシッ」と床をふんで近づいてきた。
そして、僕の真正面まできた。
そいつは、鬼だった。角がはえていて、ひげまである。虎のパンツをはいていて、こん棒を持っている。
僕の身体は、勝手ににげ出していた。開けっぱなしだった扉をぬけて、森の中へ。
森には、つまずく物がたくさんある。木の根や、倒木の幹、木の棒など。
僕は、五回以上つまずきそうになった。必死で、必死で、超必死になって走ったから、つまずきそうになったのかもしれない。
鬼の足音や、鳥の鳴き声は聞こえなかっ た。聞こえるのは、自分の足音と、自分の心臓の音だけだった。
枯れ葉をふむ音を、バクバク、という心臓の音を意識する。今、自分は生きているんだな。テストの点数のことで、親に叱られた程度で家出するなんて、なんでそんな馬鹿なことをやってしまったんだろう。そう思いつかなかったら、鬼に追いかけられていなかったのに。
五メートルぐらい前にある大木から、真っ赤な鬼の顔が、ひょい、と出てきた。
このままだと赤い鬼の顔に、赤鬼の歯がある顔に、僕の身体がぶつかってしまう。
止まるんだ、僕‼︎
そう思ったけれど、止まれなかった。
いつの間にか、ぱっくりと口を開いていた赤鬼の顔に、僕の身体はつっこんでいった。
あぁ、家出なんてしなければ良かった。』
六年一組の教室で、僕は机につっぷしていた。算数のテストが返されてから、僕はずっと机につっぷしていたことを、夢から覚めた今、思い出した。
あぁ、夢で良かった。