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赤鬼

名古屋市立平針中学校 1年
山岸雛菊
赤鬼に追いかけられる描写が上手く、迫力があります。主人公の気持ちに引き込まれて、読みながら一緒にワクワクでき、後半の不穏な描写も手に汗握りました。最後が「夢だった」で終わるのはよくある展開ですが、「夢でよかった」と心から納得させてくれる作品でした。 
(奥山景布子)
朗読:カズ祥(劇団あおきりみかん)
 『僕はすねていた、というか、怒っていた。
 なんで、と思うよね。実は、今日算数のテストが返されたからなんだ。
 算数のテストが返されて、「やばい」って思った。二点だったからだよ。
 案の定、僕は親に叱られた。
 「なぜ、毎回こんな点数をとるんだ!ふざけているんじゃないだろうな。」
 叱り方にも、問題があると思う。こんな風に叱られても、やる気がなくなるだけだし。
 それで僕は考えた。勉強しなくてもいい場所に行けばいいんだ、とね。
 僕は計画を立てた。その名も、家出計画。
 一、クラス全員を計画にさそう。
 二、秘密基地を探す。
 三、食料を、みんなで集める。
 四、家出
 五、ばれないようにする。
 一から実行した。結果、みんなも家出をしたいと言ってくれた。
 秘密基地は、裏山にある小屋を使うことにした。
 食料は、それぞれ家にある缶詰めを持ってくる予定。
 家出決行日は、七月七日になった。
 今日は六月三十日。あと八日間まてば、親から離れられる。
 あっという間に日は過ぎていき、ついに明日が決行日という日になった。
 放課後になり、リュックを背負って家から出た。リュックの中には、ツナ缶が十個とサバ缶が十一個、ビスケット一箱と、はさみが入っている。
 裏山についた。小屋までは、五分ほどかかる。
 ようやく、小屋についた。もう他の子の荷物は置かれている。しかし、人はいなかっ た。
 おかしい、と思った僕のそばには、血の跡があっ た。
 視界のすみに、赤い物が見えた。
 その赤い物は、もぞもぞと動いた、かもしれない。ごそっ、と音がしたからそう思っ た。
 怖くて、赤い物の方を見れない。
 赤い物は、「ミシッ、ミシッ」と床をふんで近づいてきた。
 そして、僕の真正面まできた。
 そいつは、鬼だった。角がはえていて、ひげまである。虎のパンツをはいていて、こん棒を持っている。
 僕の身体は、勝手ににげ出していた。開けっぱなしだった扉をぬけて、森の中へ。
 森には、つまずく物がたくさんある。木の根や、倒木の幹、木の棒など。
 僕は、五回以上つまずきそうになった。必死で、必死で、超必死になって走ったから、つまずきそうになったのかもしれない。
 鬼の足音や、鳥の鳴き声は聞こえなかっ た。聞こえるのは、自分の足音と、自分の心臓の音だけだった。
 枯れ葉をふむ音を、バクバク、という心臓の音を意識する。今、自分は生きているんだな。テストの点数のことで、親に叱られた程度で家出するなんて、なんでそんな馬鹿なことをやってしまったんだろう。そう思いつかなかったら、鬼に追いかけられていなかったのに。
 五メートルぐらい前にある大木から、真っ赤な鬼の顔が、ひょい、と出てきた。
 このままだと赤い鬼の顔に、赤鬼の歯がある顔に、僕の身体がぶつかってしまう。
 止まるんだ、僕‼︎
 そう思ったけれど、止まれなかった。
 いつの間にか、ぱっくりと口を開いていた赤鬼の顔に、僕の身体はつっこんでいった。
 あぁ、家出なんてしなければ良かった。』
 六年一組の教室で、僕は机につっぷしていた。算数のテストが返されてから、僕はずっと机につっぷしていたことを、夢から覚めた今、思い出した。
 あぁ、夢で良かった。