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砂時計の森

豊田市立浄水中学校 3年
竹國 龍飛
 情景描写がカラフルで、とても楽しいイラストが思いうかびます。森のまんなかの砂時計が止まった時に、その森の鳥、亀、ネズミ、動物たちが集まってわちゃわちゃと相談し、それぞれの個性を生かして直すのですが、その場面は楽しくてワクワクします。砂時計が動き出したことによって太陽も動き出すのですが、その夕焼けの場面もとても美しいです。色彩豊かなとてもすてきな作品です。
(藤 真知子)
 森のまんなかに、空より背の高い砂時計が立っていた。細い首に白い砂がつまって動かない。昼の影だけが地面に釘のように刺さり、みんな眠くならない。
 時計ネズミは小さな背中のブラシを撫でた。名はチク。細部に気づく天才だが臆病で、物音がすると耳が針のように立つ。「ぼくが、ほぐす」とチクは言った。
 砂の首は高すぎる。根元から見上げていると、空気が裂ける音。「遅い、遅い、遅すぎる!」焦る鳥が風の刃のように降りた。「砂は叩けば落ちる。ついてこい!」
 勢いで風が吹き、固まったふちがザラリと崩れた。だが崩れは途中でまた塊になって止まる。「叩くだけじゃ、粉は玉になるよ」
 そこへ地面がゆっくり盛り上がった。「……こんにちは」石に刻むみたいな声。のんびりカメが苔の帽子を被って現れた。「急げば……遠回り。だが……止まれば……着かない」
 三つの視線がくびれに集まる。チクは砂の表面に耳を寄せた。「……砂が、湿ってる。昼が長すぎて、木の汗を吸ったんだ」
 鳥がくちばしを鳴らす。「なら、もっと風だ!」
 カメが眼を細める。「風は……強ければ、輪になる。渦で……固まる」
 チクは胸の鼓動を数えた。早い、遅い、その間。「三つの拍子でやろう。ぼくが一本ずつく。鳥さんは一本ごとに短い風。カメさんは合間に息を置いて、湿りが逃げる道をつくる」
 「一本ずつ? 遅い!」鳥は叫んだが、チクの震える手と、カメの眼の底の湖を見てため息を一つ置いた。「……いい、やってみる」
 チクのブラシがくびれの端に届く。一本、砂の糸を引き分ける。鳥の翼が一拍だけ震え、風が糸の表面を乾かす。カメが深く息を吸い、吐く。その吐息が湿りを横へ逃がす。
 一本、二本、十本。やがて砂は微かな音で歌い出した。サラ、サラ、サラ。鳥の早い拍は飾りになり、カメの遅い拍は土台になっ
た。チクは震えながらも、いちばん細い糸を見つけ続けた。
 森の影が少し柔らかくなる。狐があくびをし、子どもらのまぶたが重くなる。「ねえ、まだ?」鳥。「……もうすこし」カメ。その「すこし」は、待つ者の背にやさしい重みを置いた。
 塊の芯がほどけた瞬間、砂は突然、滝のように走り始めた。サラサラがザアザアに変わり、昼の針がするりと抜ける。空は熱い黄から柿色、やわらかな朱へと傾いた。夕焼けが戻ってきた。
 鳥は翼をたたみ、地面に座り込む。「……遅い、けど、速かった」
 カメはうなずく。「速さは……数える相手で、変わる」
 チクは背中のブラシを抱いた。怖さは消えない。けれど形が変わった。自分の鼓動と、隣の鼓動が重なる場所でなら、怖さは道具になる。
 砂時計はまだ大きすぎて、昼も夜も来る。けれど森は決めた。夕焼けのはじまりに、三つの拍を合わせる時間を持つことを。鳥が一声空を切り、チクが一本砂の糸を撫で、カメが一息、森に隙間をあける。
 そのとき、誰かが急いでいても、誰かが立ち止まっていても、三つの拍は互いを責めない。砂が落ちるように、言葉も落ちる。早口は飾りになり、沈黙は土台になる。臆病は森の安全網になる。
 沈み切る前に、チクは空を見上げた。明日もどこかで詰まるだろう。でも、そのたびに、ぼくらは三つの拍でほぐせる。森の端で鐘が一つ鳴り、苔の帽子が露を光らせる。チクは背中のブラシをもう一度撫でた。「おやすみ」の代わりに、砂の歌を一小節、心の中でなぞる。サラ、サラ、サラ――そのリズムが、まぶたに静かに降り積もっていった。