0%
Preloader image

しかくと天気とまると気分

名古屋市立大高中学校 3年
船橋 美羽
 すごくおもしろい作品でした。自分の心を見ることができるという異世界のお話です。普通の人の心の中は丸いガラスボールだけれど、主人公は四角いガラスボックスです。それだけでも魅力的ですが、それを通して、誰かと関わることのむずかしさやあたたかさを描いている素晴らしい作品です。最後の3行がさわやかな余韻を残してくれます。今までに作者は2回受賞していますが、どんどん進化してて、これからも期待しています。
(藤 真知子)

 この世界では、誰もが自分の世界を持っている。
 これは比喩ではなく、本当に自分の心の中に存在している。
 僕以外の人は、ガラスボールの中に3頭身ぐらいの自分が居て、その世界の空模様が今の自分の心模様、その世界に存在しているものは全て自分の好きなものとなっている。
 ただし、それは他人からは見ることができない。絵に描いて伝えることは出来ても、見ることは出来ない。
「僕以外の人」というのは、僕の世界はガラスボックスでできているからだ。
 友達との会話でも、テレビでも、インターネットでも、どこでもガラスボールであることが前提で話が進んでいる。
 僕は小学生の頃に一度、口を滑らせてしまった。「僕のは四角いよ」と。
 最初はみんな興味を持って「そんなことあるのかよ」といつものように話してくれた。
 しかし「もしも心の器が四角い人がいたらその人は器と同じく、四角く、酷い性格だ」という根拠のない動画がSNSでパズってしまった。すると、僕は腫物のように扱われた。
 今となっては、いじめにならなくて良かったと思うが、小学生の僕にとってはすごく辛かった。友人から苗字にさん付けで呼ばれ、敬語で話された時は心にしとしとと雨が降った。だが、とても優しい親友からあだ名ではなく名前で呼ばれ、タメロから丁寧語に変わった時の豪雨は今でも鮮明に覚えている。
 それから僕は他人との関わりを最低限にした。だから、僕の口から僕の秘密を聞いたのは同じ小学校の人だけだ。
「また口を滑らせてしまうのではないか」という恐怖心から、仕事もなるべく人と関わらないものを選んで過ごしてきた。
 そんな僕に親友から手紙が届いた。
 内容は「あの時はごめん。自分勝手なのはわかっている。でも、僕の婚約者が君に会いたいと言っているんだ。だから会ってくれない?会うか決める為に話を聞きたいなら、その為の時間は僕が君に合わせるから」というようなものだった。
 僕は親友を信頼していない訳ではないが、理由も分からずに、知らない人に会うのは怖かったので、まずは親友に会いに行った。
 人と関わらない仕事をしているとはいえ、普段から趣味や献血のために外に出ているので、外出自体は別に苦では無かった。
 久しぶりに会った親友はかっこよくなっていた。服のセンスもよく髪型も似合っていた。でも性格は小学校の頃の優しいままだった。
 そんな親友の婚約者が僕に会いたがっていた理由は「彼女の心の器がガラスボックスでできている」ということだ。
 親友は僕が腫物のように扱われていたのに、何もできなかったことを悔やんで、心の形について研究を始めたそうだ。そして、その研究の過程で婚約者となる人と出会い、仲良くなった。彼女は「自分以外にも心の器の形が四角い人がいる」というのを親友から聞いて会ってみたいと思ったそうだ。
 僕は自分も興味があったので承諾した。
 初めて僕以外の心の器の形が四角い人と話したが、共感できることがたくさんあって、趣味以外で久しぶりに心の中が晴れた。
 三人で会って話した数年後に彼は心の形に関する論文を出した。その論文の内容は、
『ガラスボックスの人の特徴として、Rhマイナスの血液を持つ人』というものだった。確かに僕はRhマイナスだった。その論文が出たのをきっかけに「実はこんな形です」という投稿がSNSで少しずつ出てきた。
 そのため親友はまだまだ研究を続けている。
 一方僕は親友に頼んで小学校の頃の同級生の集まりに初めて参加した。するとみんな優しくて、久しぶりに僕の世界に虹がかかっ
た。
 どれだけ楽しい時間を一人で過ごしてもかからなかった虹が小学校以来にかかっていた。