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素敵な誕生日

名古屋市立松栄小学校 5年
村田 晴香
忙しくて誕生日を祝ってくれないお父さんとお母さんとケンカして家出を決意する双子の姉妹。夜にこっそり抜け出してくらい街を歩く二人が出会ったのは、まさかの人食い宇宙人。怖くて真っ先に逃げた先が自分の家という素敵でユーモアのあるお話です。「親とケンカする」という日常を飛び出してSFになる展開の仕方がとても興味を引きました。
(ながおたくま)
 私とお姉ちゃん、家出します。水、パン、服も持って、準備完璧。
 朝、お母さんとお父さんとケンカした。明日が私とお姉ちゃんの誕生日ってことを忘れて、遅くまでの仕事を入れてしまったのだ。
「パパ、ごめんって言っているだろ、なあ? パーティーは違う日にやれるよ。」
「違う日って、いつなの!」
「まだわからないわ。仕事、忙しいのよ。」
 娘の誕生日くらい、覚えておいてよ。私は床にぺたんと座って窓の外を見た。灰色の空からまっ白な雪がしんしんと降っていた。
『家出作戦』実行は、今日の深夜。
「じゃあ、お休みなさい。二人とも。」
 ドアがバタンと閉まった。お母さんとお父さんはいつも十一時頃に寝る。だから、頬をつねってなんとか起きていた。寝る前に家出すると気付かれるかもしれないから。そして、部屋の外で音がしなくなった。よし、寝たな。
 私はお姉ちゃんに目配せし、ドアの方もチラリと見て、ベッドから起き、さっとリュックを背負った。窓から出る算段になっている。
「家出作戦、実行! アオイ、行くよ!」
 私とお姉ちゃん、家出しました。夜の街はとても静かで、不気味。車は一台も走っていない。道端に街灯がポツンと立っているだけ。
 私達は、目的地まで全速力で、音をたてないように走った。はぐれないようにお姉ちゃんの服の裾を握って。握っていた手が汗ばんできた頃、目的地の薄暗い洞窟に着いた。
 洞窟の中に、変なヒトカゲが見えた。いや、あれ、人じゃない。そういえば今朝、ニュースで宇宙人が目撃されたって言っていた。
 「ははは! 食べ物が自ら入ってくるとは!」
 ・・・夜の街よりも、もっと、もっと不気味なしゃがれ声が洞窟いっぱいにぐわんぐわんと響いた。そして、宇宙人が、こちらに向かって猛ダッシュしてくる。私達の事、食べ物って言っていたなぁ。えっ、逃げなきゃ!
「アオイ、洞窟! 洞窟から出るよ!」
「まて!」
「ぎゃああーー!」
無我夢中でとにかく走った。どこに向かっているかなんて考えていない。気が付けば目の前に私の家があった。その途端、リュックがガシッと掴まれ、足が宙に浮いた。
「宇宙人さん! お願い、洞窟に帰って!」
お姉ちゃんが大声で叫んだら、声を聞いてか、お母さんとお父さんが出てきた。二人を見て、宇宙人は溶けるように逃げていった。
「お父さん、お母さん、家出しちゃったの。ごめんなさい。」
「もう! びっくりしたよ。あなた達、寝ていると思っていたから。あ、丁度ね。たった今、零時になった。今日があなた達の誕生日よ。アオイ、モモカ。パーティーなくてごめんね。でも忘れてない。ほら、誕生日プレゼント。」
「ええ⁈」「やったーー! でも、来年は仕事入れないでね、私達の誕生日には!」
 真冬の夜の小さな(?)出来事だった。