[地球に巨大な隕石がもうすぐ衝突します。『緊急脱出装置』を各地域に配備しましたので、至急乗り込んでください!]
今、《地球壊滅警報》が発令された。急に入ってきた衝撃のニュースに、僕は混乱している。
(隕石?緊急脱出装置?なにそれ、映画?)
「昴!早く大事なもの入れて!脱出装置が満員になっちゃう前に、急いで!」
「う、うん!」
この様子だと、どうやら映画の中の架空話ではなく、現実世界の出来事のようだ。
大切なものを母に言われてかき集めている時に、僕はふと、ある疑問を抱いた。
階段を降り、僕は母にそのことを聞く。
「お母さん、あずきはどうするの?」
あずきとは、僕の愛犬のことである。
「あずきは所詮犬だし、大きいから乗せられないわよ。置いていきましょう」
お母さんは顔を合わさずに、淡々と言う。
「え?なんで?やだよ!僕はあずきを置いてなんか行けない!あずきがここに残るなら、僕も残る!」
「…はあ?本気で言ってるの、昴?あなたは自分の命も大切にできないの⁈」
「そうだよ、本気だよ!」
僕がそう言うと、母は呆れた顔になり、
「じゃあいいわよ。もうすぐ出発しちゃうし、昴はあずきと最期まで仲良く過ごしなさい」
と言って、家の外へ去ってしまった。
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しばらくすると、装置がゴゴゴッと音をたて、離陸する様子が見えた。
「…あずき。最期まで、一緒にいるよ」
そう囁いた瞬間、警報を地域の人に伝えたあのアナウンスが、何かを話し始めた。
[皆さん、無事でしょうか?ご安心ください。隕石なんて衝突しません!]
(…え、いきなり何?どういうこと?)
[困惑されているでしょうし、説明させていただきます。これは、私たちが秘密裏に準備を進めていた、人間を振り分ける試験です。人間は昔から、動物を殺して生きてきました]
(確かにそうだけど、それと何の関係が?)
[もちろん、それは食物連鎖なのですから仕方のないことです。しかし、人間は食物連鎖の頂点に誇りを持ちすぎてしまった。そして、意味のない暴力、殺処分。そういうことをするようになってしまったのです]
(…そういった醜い心をもつ、人間を振り分けた。そういうことだったのか)
[だから、ここは安全です。隕石なんて降ってきません。私達が保証します!]
そうアナウンスが響くと、周りに取り残された人達が泣いたり、抱き合ったりしている。
僕はほっとし、安堵のため息を漏らした。
また、自分とあずきを見捨てた母がどうなるかなんて、気にも留めなかった。