「一日に9999回家を回します。」
ぼくは、聞いたことのない大きな声で起こされた。だれの声だ?と思ってあたりを見回してもだれもいない。なのに、
「一日に9999回家を回します。一日に9999回家を回します。一日に9999回家を回します。一日に9999回…。」
とくり返し続けるのだ。よく耳をすまして聞いてみると、しゃべっているのはぼくの家だった。ぼくは、ねぼけていてなにがなんだかわからないまま、
「はい。」
と答えてしまった。
その日からぼくの生活はすっかり変わっ た。
最初のうちは、一回100円のメリーゴーランドとして、世界中からたくさんの人を集めた。テレビ局や新聞社などから取材され、人気YouTuberも続々と来たおかげで、毎日お客さんは500人以上。なので一日5万円以上、一か月で200万円ぐらいかせげるようになった。家にいるだけでお金がどんどんふえていく。あのとき、「はい。」と答えてよかったなぁと思いながら、幸せな毎日を過ごしていた。
しかし、一年ぐらいたったころ、困ったことが起きはじめた。一日中家がクルクル回っているせいで、家の外にいてもクルクル回っているような気分になるのだ。頭はずっといたいし、夜はよくねむれない。字もうまく書けないから宿題もできない。そして、困っていたのはぼくだけではなかった。いろんな有名人に会えて喜んでいたお姉ちゃんは、勉強に集中できず、成績がどんどん下がっていった。学校では、
「おまえの家、遊園地かよ。」
「毎日メリーゴーランド乗ってるの。」
とバカにされるそうだ。妹は、家で大好きな鉄棒やお絵かきができなくて、元気がない。お父さんとお母さんは、
「家が働いてくれるから、もう仕事をしなくていいね。」
と言って、毎日ダラダラするようになってしまった。
こんな生活はもういやだ!無理ー!と思ったぼくは、
「ごめんなさい。もう家を回すのはやめてください。」
と泣きながらさけんだ。でも、家は、
「あなたが『はい。』と言ったので、もう止めることはできません。」
と、まったく聞いてくれない。次の日も、その次の日も必死にお願いしたけどだめだっ た。
このままではどうしようもない。もう残った方法は一つしかない。ぼくはしょうがなく家をこわすことにした。今までメリーゴーランドでもうかったお金を全部使って、家をこわし、新しく家を建てた。
これで、やっと平和な生活にもどることができた。ぼくは、ねぼけてだれかと話をするなんてことは二度としないと心に決めた。