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アルパカのクク

名古屋市立天白中学校 2年
代田栞那
主人公が初めて「一人で」「見知らぬ場所」て行き、そこから戻るまでの物語。こうした主人公の成長を描くタイプの物語は、ついついおおげさな表現を使って、盛り上げようとしたくなってしまうものなのですが、この作品は、むしろ淡々とユーモラスに描けているところが個性的で、思わず続きが知りたくなる、楽しい仕上がりになったと思います。
(奥山景布子)
 あるところに一匹のアルパカとその友達や家族がいました。今日、話すのは、僕、ククが主役。最初に言った一匹のアルパカは僕のこと。じゃあ、ゆうかんなアルパカ、ククの話を聞いてね。
 ある日の事、ククはいつものように、食べる時も、お昼寝するときも、何をするにしても、誰かと一緒だった。だから、家族に「一匹で何かをしてみなさい。」とか、「一匹だけで冒険にでも出てみると良いよ。」と言われていた。でもいつも、「絶対にやだ。」とククは言っていた。
 だが、突然、雲が真黒くなり、辺りは薄暗くなった。まるで、嵐が来るみたいだと思っていたら、本当に嵐が来てしまった。すごい風とすごい雨。急いでみんな中に入るが、ククだけ、逃げ足が遅く、みんな「急げ‼」と言っていた。ククも必死で走っている時、おもいっきり、強い風が吹き、近くに落ちていた枝と共に飛ばされてしまった。
 ククは飛ばされた時に、枝が頭に当たって気を失ってしまった。
 目が覚めると、どこかわからない島の、砂浜の上に、横たわっていた。なぜだか分からないが、自分が住んでいるモホム島とはすごく遠いようだ。とりあえず、起き上がって食べ物やモホム島に帰るためのイカダを探そうと思ったが、近くに仲間がいないのが怖くてしかたがなかった。それでも、なんとか、食べ物とイカダを見つけなければいけない。そう感じ、不安ながらも一匹で歩いた。二十分くらい歩くと、川が奥にあるのが分かったククは川の方向にどんどん歩いて行った。
 すると、そこには、とうめいな絵に描いたかのような美しい川で、食べ物らしき物を洗っているアライグマがいた。そのアライグマは少しこわそうな感じのまゆ毛をしていたが、勇気を出して話しかけてみた。
「あ、あの。」
「何だよ!手短に話して。」
「ここはどこなんですか?どうやってモホム島に帰ればいいんでしょうか?」
「ここは、ヨヘン島だよ。モホム島に帰るには南にまっすぐ行け。」
言われた通り、ククは「南に行こう。」そう思ったが帰るための食べ物も、イカダもない。
 ククはまた歩き出した。歩いて四十分くらいたった頃、同じアルパカに出会った。これは、奇跡だと思った。そして、なぜだかククは、そのアルパカがいる場所に走って行っ
て、いろんなことを聞いた。
「僕、クク。君は?イカダや食べ物を持ってない?もしあるなら分けて欲しい。ダメ?」
いきおいのあるまま、いくつも質問すると、
「私は、ナサ。イカダ?イカダの材料はあるよ。ご飯はすぐ右のところにたくさん生えている草を食べな。あと、いちおう、ここにある島の草は全部、食べれるよ。」
そんな風にやさしく教えてくれた。実はナサは、一年前に友達とけんかし、その友達に無理やりイカダに乗せられ、ここまで来てしまったようだ。でも今は、ここが気に入っているらしい。
 そして、話の続きをすると、僕ククはイカダをもらって、草もナサがくれた袋の中につめた。
 そこからククはイカダの上に乗り太い木を使って、海の真ん中まで必死にこいで島まで残り一㎞くらいのところまで来た。でも、疲れて、手が動かない。仲間たちのことが恋しくなってしまった。すると、急に頭の中に、よく親友が言っていた、「君は何があっても必ず僕のそばにすぐ帰ってきてね。」という言葉が浮かんだ。そこから、ククは必死にこいだ。全然進まなくて、イライラしてしまってくしゃみもしたが、あきらめてはダメ‼と気合いを入れ直して必死にこいだ。
 三時間こぎ続けた時、モホム島についた。みんなが僕をだきしめてくれた。僕、ククは一つ階段を上がった気がした。