「ただいま。」
靴を脱いで、リビングに行く。ぱっとテレビに目をやる。
親友が交通事故で亡くなったと知ったのはその時だった。「紫蘭さんは今日午後五時頃亡くなりました。」とアナウンサーが淡々と言う。
「紫蘭、どうして?」
涙があふれて、私はそのまま眠ってしまっ た。
学校にはみんなも、紫蘭もいる。いつも通り賑やかなクラス。そう信じて教室に入った途端、みんなの声は静まり返った。みんなが私の表情を伺っている。それで、紫蘭が亡くなったという現実が胸に突きつけられた。
家まで、ゆっくりと歩いていく。事故現場にお花をお供えしに行こうか。でも、今は行く気になれない。また今度にしよう、と思ったまま、時間はどんどん流れていった。
ある日、同じクラスの敬花に声をかけられた。
「一緒にお花をお供えしに行こう。」
私は驚いた。そんな事を言われるとは思わなかったからだ。敬花は震える声で言う。
「お願い、お願いだから。」
私は決心した。
「一緒に行こう。」
二人なら心強い。
私達は花屋で、お供えする花を選ぶ事にした。菊にしようとすると、紫蘭という花が目に入った。
「この花の名前、私と同じなの。だから好きなんだ。この花にはね、怖い花言葉があるの。苦しむ勇気、不吉な予感、とか。怖い言葉でしょう?でも、ちゃんといい花言葉もあるんだよ!」
そう、笑って紫蘭が教えてくれた。「この花にしよう!」と二人同時に言った。私達は顔を見合わせて、笑い合った。
坂を下れば、事故現場がある。ゆっくりと歩く。だんだん足が震えてくる。道路を走る車が見えて来た途端、ぐわん、と視界が急に揺らめいた。立っていられない、と思わず蹲る。
「藤!」
敬花が私の名前を呼んだ。
「藤、大丈夫?」
敬花が水の入ったペットボトルを差し出した。ありがとう、と私はそれを受け取った。敬花の手は震えていた。
「藤、私ね、紫蘭が事故に遭うところを見たの。帰り道に、紫蘭を見かけて、声をかけようと思ったら、ブレーキ音が聞こえて。」
何も出来なかった。助ける事が出来なかっ た。敬花は泣いていた。私と同じで怖かったんだ。今度は、私が勇気を出す番。
「敬花、勇気を出してくれてありがとう。」
私は立ち上がった。
「一緒に行こう!」
私は手を引いた。敬花が驚いた顔をした。一緒に走って、笑い合った。もう、怖くない。
すずらん、ベロニカ、忘れな草、スターチス。たくさんのカラフルな花が、事故現場に供えてあった。ねぇ、天国から見てる?紫蘭は、こんなに愛されていたんだよ、と花を供えた。
「天国から見ているよ、藤、敬花。私の好きなお花を選んでくれてありがとう。」
花言葉
紫蘭「あなたを忘れない」
藤「あなたに夢中」
けいか(金木犀)「真実の愛」