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モモ

桜丘学園桜丘中学校 3年
佐野百恵
「死」を目の前にしての命の選択。重すぎる決断をした女の子を描いた作品。主人公が自分の母よりも他人である老夫婦を優先したところのリアリティには評価が分かれるかもしれませんが、自己犠牲的な行為がもたらす痛みとのちのちの癒やしを、意欲的に書いていると思いました。物語の最初から最後までドラマチックで、高い構成力と文章力を感じさせる作品でもありました。
(奥山景布子)
 私は空にいます。雲の上で優しい神様と遊んでいます。いつものように、ふわふわ浮かんでいると、優しそうな人を見つけ、この人の子供になりたいと思った瞬間ヒュッと、その女の人のお腹に入っていました。
 私の物語の始まりです。
 私が産まれると、お母さんはいつも優しく温かく私を抱きしめ「あなたの幸せが私の幸せ、笑顔あふれる人生になれ。」と言います。
 ある日、穏やかで幸せな生活を戦争に奪われて、恐怖に震える日々が続きました。
 母と離ればなれになってしまい必死で母を探していると、遠くから「クロちゃん。」と何度も聞こえます。近付くと翼が折れボロボロの白い鳥がいます。「どうしたの?」と聞くと、「クロちゃんが見つからないのです。私の大切な親友です。」と。可哀想に思い一緒に探すと冷たくなった黒い鳥が見つかりました。白い鳥が何度も「クロちゃん!」と泣きながら呼びかけます。やがて少し落ち着いた様子で、「ありがとう。助けてくれたお礼です。」と、体からスーと取り出した光る玉を私に差し出し「この玉は一度だけ死者を生き返らせる事ができます。孤独は辛すぎるし、長くは生きられないでしょうから、どうか受け取って下さい。」と。私が玉を受けとると、二羽の鳥は「ありがとう。」と笑顔で空高く昇り、見えなくなりました。光る玉を大切にしまい、再び母を探します。ようやく母が見つかりましたが、息をしていません。その場で泣き崩れましたがハッと光る玉を思い出し生き返らせようとした時、右腕が無い事に気付き、右腕を探してからと決めました。母を安全な所に隠し探していると、お婆さんが泣いています。「おじいさんが亡くなり私一人では生きていけません。」心配になりますが、私は腕を探しました。ふと気になり戻ると、まだお婆さんは泣いています。私は光る玉を握りしめ、じっと見つめました。そして涙があふれそうになる目をギュッと閉じると、大切な玉をお爺さんに使ってしまいました。二人は抱き合い私に何度もお礼を言い幸せそうです。本当は母と私がこうなるはずだったと思うと二人から離れたくなり全力で走り出しました。二度と会えなくなってしまった母を呼び「お母さん!お母さん!」と泣き叫びながら走りました。心と身体がつぶれそうに苦しくなり動けなくなった私を朝日が照らすと、母の笑顔を思い出し、生きている限りは頑張ろうと決心しました。母の所へ戻ると、母を背中に背負い、誰もいない場所へ行こうと歩き続けます。町から離れた草原に一本だけ木が育っています。近付くと目を見開き立ちつくしました。木の枝と枝の間に、母の右腕が見えます。けれど、もう玉は有りません。私は泣きながら穴を掘り木の根元にお墓を作ると、その木を『お母さんの木』と呼び、木の下で生活する事にしました。不思議なことに、その木は、毎日果物が一つ実り食べることが出来たおかげで食べ物には困りません。
 ある日、眠りから覚めると膝の上で白い猫が寝ています。離れる様子が無いので近くの小川で魚を捕り食べさせました。それからもずっと側に居てくれる家族になりました。それでも時々母を想い、月を見上げて涙がこぼれます。白猫は心配そうに私を見上げます。
 私の髪はまっ白になりました。今日は桃が実っています。「いただきます。」桃を一口かじると甘くて優しい味です。揺れる木の葉の音が母の優しい声のようです。ゆっくり目を閉じ、心が穏やかになった時、持っていた桃が転がり落ちます。私は白猫と一緒に空へ。「ああ、やっとお母さんに会えるんだ。」目を開くと優しい笑顔が飛び込み「お母さん!」と叫ぶ私を力強く抱きしめ「ももちゃん頑張ったね。生きてくれてありがとう。」とギュッとします。呼ばれる事が無く忘れていた大切な名前。そうだ!私はももだ!涙がとめどなく流れる私は「お母さん、産んでくれてありがとう。」と母を抱きしめました。