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僕とノンプレイヤーキャラクター

名古屋市立大高小学校 6年
船橋美羽
ゲーム・仮想世界という現代っぽいテーマで書かれており、入り込んで読むことができました。その世界に対する主人公の憧れや街の雰囲気が上手に表現できています。ラストのどんでん返しにも驚かされました。思わず読み終わった後に何度も前半を読み返してしまいました。自分の正体を知ってからのNPCの葛藤や活躍にも想像が膨らみます。
(棚園正一)
 「やっとゲームがやれる」
 今日は、世界に一万個しかない、新しい ゲームの開始日なんだ。僕は博士ってあだ名のおじさんにソフトをもらったんだ。運がいいでしょ。そのゲームは、今までのゲームと違って、魂ごとゲームの世界に行ける。少し前までは、想像も出来なかったゲームなんだ。
 しかも、学生に合わせてくれたのか、開始日は夏休み中だった。僕は中学生だから、めっちゃ嬉しかった。
 そして僕は、ゲーム開始時刻になった瞬間にログインした。そこは、音や空気など、現実世界と全く一緒だった。全くというのは、僕からしたら現実世界と仮想世界の違いが分からなかったからだ。テレビとかで偉い人が「情報量が違う」とか、よく分からない事を言ってるから、他の人には分かるかもだけど、僕には分からなかった。違うとしたら、自分の見た目ぐらいだと思う。だって現実の僕はこんなに大きくないし、こんなに不細工でもない。まあ現実の僕もイケメンではないけど。
 それは置いといて、僕は「今日からここで過ごすんだー」と思うとわくわくした。だってゲームの世界で生活できるんだよ!そんなのうれしくないわけないじゃん。逆に、うれしくない人に会ってみたいぐらいだよ。
 僕は、ここで過ごし始めて気づいた事がある。最初の一万人以外誰もいないんだ。普通さ、こういうRPGゲームだと、NPCとかがいるようなものじゃないの。なのに、このゲームにはNPCもCPUもいないんだ。まあ、NPC達がいないから、その分みんなで、街を盛り上げていくっていう面白さもあるよ。でも、このゲームの醍醐味はモンス ターを倒して経験値を得て、レベルアップしていくものじゃないの。まあ、その中で鍛冶職人になったり、商人として、プレイヤーを支えたりするけど、そういうのってNPCがやってるのを見て、僕達プレイヤーもやり始めるものじゃないの?
 僕は、NPC達がやってるお店が一カ所ぐらいあると思ってた。だから、今まで気づかなかった、NPCや、CPUの大切さに気づけた。
 僕達は、街を盛り上げたりするのに必死で、九割の人はゲーム攻略をしなくなった。ダンジョンに潜るのは、食材になるモンス ターの肉を他のプレイヤーに売る為だし、使える素材の定義は、盾や剣になるかより、生活に使える素材かどうかに変化していた。
 そんな生活が普通になったとある日に、現実世界から一万人ぐらいの人が来た。まるで、僕らが初めてこの世界に来た時のようだった。
 新たに来た一万人のプレイヤーは僕らを見て、いや、僕らの作ってきた街を見て、「今まで見てきたどのゲームのどの街よりちゃんとしてるし、NPCが俺らと同じプレイヤーみたいだな」と言った。それを聞いて僕は気づいた。現実世界と、仮想世界の違いが分からなかったのは、僕が現実世界を知らなかったからで、NPCがいなかったのは、僕達自身がNPCだったことに。